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22.02.2003
 
Web basedプロジェクト Vol. 01:
李婉貞(ワンチェン・リー)/「身体知道我們在一起」(Body knows we are together)

ARCUS2002東京展 
2002年11月30日ー12月15日 
現代美術製作所, 東京
テキスト:藤本玲

 茨城県が展開しているアーティスト・イン・レジデンス、ARCUSプロジェクトは今年8年目を迎え、アメリカ、台湾、フランス、インドネシア、日本から5か国の若手アーティストが、県南部にある守谷市の「もりや学びの里」にて創作活動を行っている。市自体が農村地帯の中央に新興住宅地を抱える「これから」の都市であり、廃校舎を創作スタジオとしてアーティストに開放しているため、材料の入手は都会のそれほど簡便にはゆかず、いわゆる創作のための設備・機材は皆無である。つまり、交通も流通も未だ完璧とは言いがたい地方都市に滞在するアーティストに対して、作品のクオリティ以前に要求されるのは、「他とのコミュニケーション能力」なのである。これは地元の人々とのコミュニケーションはもちろん、同じように招聘された他の国々から来たアーティスト同士でも同様に要求されるものだ。彼等は様々に異なる「ものの見方・考え方」を異国文化のなかで、自己のアイデンティティーを問い直しつつ、我々の前に見せてくれる。

 台湾からの参加となったワンーチェン・リーは1976年台北生まれ。台湾の伝統的なアニメーション手法を創作活動の原点としたが、現在では視点と手法がより空間的な広がりを見せているようだ。彼女のアトリエ(教室)を訪れると、そこ散らばるのはおびただしい量の「本」だ。しかしあくまでそれらはストーリー(中身)としての本ではなく、あくまで表紙、ページ、背表紙、そしてカバー....という「形態」としての本であり、よく見ると、本を全く「本」として扱っていないのがわかる。タイトルも何もかかれていない白いカバー。しかしそのカバーの内側にびっちりと「内容」が絵とともに書かれている。彼女は来日し、書店で本を購入する際、「カバーをおかけいたしますか?」という店員の一言に驚きを覚えたという。なぜ「カバーをする(cover up=隠す)必要があるのか?」読んでいる本の内容を、表紙(外側)によって他人に知られる事に抵抗を示すのはなぜか? 知られることによって何を「判断」されることを恐れるのか? 彼女はそこから本と人々の間にある関係を考えはじめる。彼女は絵や文章のもつ意味を一度取払い、本のイメージを模索したのである。

 その結果として、彼女が現代美術製作所(東京展)で我々に示したものは、本とカバー/身体と衣服という関係性であった。展示されているのは壁にかけられた黒い衣服。その横にはその衣服を着用した2人(守谷市民)のポートレイト写真とその関係が何組分も書かれている。そして彼女は同時に白紙を用意し、我々の「各自の本」を「cover up」する事を要求するのである。カバー(衣服)を着けても、中身と関係は変わらない。カバー(衣服)を同じにしても、中身も、関係も異なる。そして彼女は「身体は、『私』が同じである事を知っている」と述べている。この本とカバーという身近な素材・関係と、身体と衣服という2種類のリフレクションでの見せかたが面白い。

 通勤通学の移動距離と所要時間が他国と比べて極めて過酷な日本で、「電車の中」は、我々が活字に漬かる重要な場として外せない。活字離れが進んだといわれる日本人だが、それは過去と比較しての場合であり、他国と比較すればやはり活字が大好きな民族であることに間違いはない。海外からの来訪者にとって、電車内で活字(もしくは漫画)に没頭する人々の光景は間違いなく「異文化」だ。おまけに彼等は知る由もないだろうが、片手でも読める文庫サイズ、人前で吹き出さず、泣き出さない程度の内容....「電車本」なるジャンルもあるらしい。彼女の作品を見た後に改めて意識したことだが、駅構内の書店で本を購入すると、例の「カバーをおかけしますか?」と聞かれる率はかなり高い。そして、彼女が見せてくれた我々の日常ーカバーをかけ、(もしくは中身をさらしたまま)身体と身体を密接に寄せ合い、同一空間に揺られる光景ーのなかにはどのような無意識のコミュニケーションが存在しているのだろう。ごくごく日常的な光景が、作品によって別な意義となって浮かび上がる。

 守谷市では平成17年度開通予定の常磐エクスプレス(つくば〜秋葉原を45分間で結ぶ)の新駅の着工がすでに始まっている。宅地分譲もすすみ、ますます見知らぬ隣人が増えるだろう。はたしてワンーチェン・リーが見せた「カバー」の存在を、守谷市民は意識できるだろうか。あなたはカバーをかけるだろうか?(藤本玲)


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